こちらでは、VP・PP・IPといった「場の役割」、
VMDを実践する上で重要なストアプランに係る要件「売場の眺め」「高さと奥行」といった
MDPに関係する事項をトピックとして解説しています。
前項「売場の眺め」でも触れておりますが、売場内、特に品揃え面(IP)に対する高さと奥行の考え方を人間工学の観点で解説します。この内容は解説として類似した立断面の模式図が多く出回っていますのでご存じの方も多いことでしょう。
「ゴールデンゾーン」という言葉を聞いたことがあると思います。テレビのゴールデンタイムみたいなものですが、物理的に人間が一番手の届きやすい高さ帯、テレビでいう視聴率を稼げる時間帯みたいなものです。
売場のゴールデンゾーンは、H700~H1350とか、H600~1500とか、H800からとか諸説あります。
①ゴールデンゾーンでいう低さの下限
お客様を一般の大人の方と想定しますと、H600では少々低いです。無理に腰を落としたりせず、用意に届く範囲でいうとH700~800が適当でしょう。これは、棚なりテーブルなりに置く商品のサイズやアイテム特性によっても微妙に変わります。ハンドバッグや少々サイズのある商品ならH600でも手に取る際に問題はありませんが、小物関係になってきますとH800くらいある方が取りやすいのです。グローサリーなら下段には箱積みして高さが上がったりしますし。よく什器エンドやクローズアップコーナーに設置される3段テーブルでいうと、下からH600/H750/H900の15センチピッチだったりします。段数が少ないのであればH750~H800というのはストレスが少なく非常に使いやすい高さです。問題は、テーブル状であるときに足元の抜け感が大きいこと。子供用品の場合はH600が適正です。
ちなみに、H600以下でも商品を展開するのは普通です。靴もハンドバッグも最下段はH600以下です。これは商品特性上手に取りやすく戻しやすいので気にならないからです。靴はもともと地べたに置くものですし・・ところが衣料品の畳置き展開等でこれをやるととたんに取りにくく戻しにくくなりますから注意が必要です。H600以下でも展開はできますが、あくまでもゴールデンゾーンではないのです。衣料品の畳置きの下限はH450でしょう。これは一般的なストックボックスの天板高になります。
②ゴールデンゾーンでいう高さの上限
これまた一般の大人の方で言いますと、ゴールデンと呼べるのはH1500が上限であろうと思います。これを越えますと身長の低い方だと取りにくくなってきます。人間の目線の高さはH1500と言われていますから、その高さが普通に歩いているときに目に飛び込むわけです。目に留まれば触られる機会が増えますし触れる高さですのでH1500はゴールデンな高さと言えます。
ではよく引き合いに出されるH1350というのはなんだ?という話ですが、これは前項「売場の眺め」に関係するもので、置き什器がH1350を超えると目線に障って奥が見にくくなるためこれ以上は上げない方がよい、というところが一つ。H1350の棚什器があったとして、その最上段には商品展開をあまり行わないのが普通と思いますが、展開しますと実際のIP高はほぼH1500近くになるのが二つ。H1350は、天板上までフルに商品展開するとH1500になってしまいゴールデンゾーンの上限に達するから、本体の什器高はこれ以上上げないほうがよい、ということです。あとはマニアックな話ですが、什器の棚ピッチはH150の単位で刻むと使いやすい・・・ということから、本体寸がH1350になりやすいというのもあります。
③什器対面でいちばん目に留まりやすい高さ
ゴールデンゾーンの中で一番目に留まりやすい高さは、H1100~1350です。このあたりに売りたい商品、目を惹く商品、細かくて目を近づけないとディテールが判りにくい商品等を置くと良いでしょう。
ということで、2DISPLAYの考えるゴールデンゾーンはH700~1500です。
④IPを展開するには不適切な高さ
これは人間工学的にも物理的にも・・という話ですとH2100が上限でそれ以上はダメです。手が届きません。
手は届くけど什器対面では商品の全貌が見えにくい・・という高さはH1600~1700です。なので、柱・壁面ではH1700から上にPPが設置されることが多いのです。一方で遠目からはよく目に留まる高さです。
この10年くらいでほとんど見なくなりましたが、ハンガーバーによる衣料品の「壁面2段展開」は、上段がH2000~2100、メンズですとH2200くらいになります。これは商品サイズに起因しますので少々取りにくくても商慣習上OKということです。下段にパンツを下げることを考えると下段はH1100程度必要になるからです。
ところがこの2段展開はレディスでは上下のセットアップ陳列の台頭により多数の店頭から駆逐され、壁面といえども1段展開が主流になりました。この場合、H1600~1700にバーが設定されます。この高さであれば、マルチコーディネイト展開の際にコートも展開できますし、パンツもまっすぐ吊れるというわけです。目線にもジャストに見えるので美観も問題ありません。ただし、天井高が高いときには壁面意匠に配慮と工夫が必要ですからデザイナー泣かせと言えます。
H2100以上は、品揃えやPPではなく展開分類を示す常設サイン(ブランドサインやアイテム別サイン等)の設置高になってきます。ここから上はショップサインやファサードのボーダーを形成する高さです。
⑤奥行
奥行、とくに棚の奥行については商品サイズと陳列のしかたによって変わりますので一概には言えませんが、
といったことが留意点です。
奥行に対し棚ピッチが低く商品がストックも兼ねて圧縮展開されるドラッグストア等では、お客様が商品を取ると奥のストックがバネ仕掛けで前に出てきて自動的に前進立体陳列を維持する素晴らしいツールが使われています。売る側にとっては悩みにもなる奥行(置くまで詰めると出しにくい)を智恵と工夫で解決した好事例です。
「図書館陳列」と呼ばれる壁面構成があります。壁面の床面から天井まで一面を棚や格子で構成し、商品で埋め尽くすという手法です。書店でも最近はよく用いられますし、ライフスタイルショップや一般家庭でも好まれて設えられています。これは本項の人間工学的な高さの問題では図れない設計です。場の価値を高めるために没入感を演出するとともに、壁面全体を象徴的なコアにすべく「インパクトウォール」として形成しているためです。コンセプトとアイテム特性によっては大いに導入する価値があります。この場合、天井高にある商品を梯子に登って取る、というパフォーマンスも素敵ですし、オープンストックにしてもOKです。逆に、実際は埋めるだけの商品を手当てできないのにこれを作ってしまうとエライことになります。カッコいいけど実現できるかどうかは慎重に現実的に確認してください。
VMDの実務担当者は、前項の売場の眺めの観点とこの高さの観点をもって、環境デザイン空間構成上のバランスと売場の商品の見え係りのバランスを総合的に頭に描いて陳列計画・展開計画を指揮していくことが望まれます。こと品揃え面については人間工学からくる高さと、商品サイズ等の展開特性からくる展開高・棚ピッチ等を常に頭に置いて最適な面構成を計画せねばなりません。
特に新規性の高い展開手法と展開機能を考案した場合は、IPでもVPでも実施にあたり「高さと奥行及び商品サイズと並べ方」を、テーブルとかリース什器等を用いてリアルに検証することを強くおススメします。低めで奥行が深いような設定の場合は要注意です。商品を手に取ったり戻したりする際にお客様の腰に響いたりしますから。2DISPLAY代表も前職では自宅のテーブルでセッティングして妻にシミュレーション手伝ってもらったりしたものです。
以上の話を踏まえ、いよいよ実践項目の中で最重要な項目である品揃え面、「IP」に移ります。
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