こちらでは、VP・PP・IPといった「場の役割」、
VMDを実践する上で重要なストアプランに係る要件「売場の眺め」「高さと奥行」といった
MDPに関係する事項をトピックとして解説しています。
店頭の商品展開・陳列はもれなく「売り場」と「見せ場」に別けることができます。
「売場型の見せ場」や「見せ場型の売場」というのもありますが、売場と見せ場に役割を別けて括り、サービス機能も含めたリレーションを考慮して配置することが重要です。あなたのご担当の売場も間違いなくそのような設計になっていることでしょう。「場の役割」というのはこの「売場」「見せ場」の役割に応じた別け方のことです。
「場の役割」と言われてもピンとくる方は少ないかもしれませんが、「VP」と言われればわかる方が多いでしょ
う。場の役割は「なんとかP」というやつです。VP・PP・IPの3種類が一般的に知られています。
後述でこの典型3種については詳しく解説しますが、どんな役割を負ったプレゼンテーションの場が店舗内・売場内にあるのか明確にして、運営上誰がどういう範囲でその場づくりをするかが明確になっていることが望まれます。
「見せ場」=VP(ヴィジュアル・プレゼンテーション)
:店舗・売場の顔としてのディスプレイ
PP(ポイント・プレゼンテーション)
:特定の品揃えのグルーピングを代表するディスプレイ
「売り場」=IP(アイテム・プレゼンテーション)
:品揃え全体と単品単位の商品そのもの
本や資料に例えると解りやすいです。
ここでは、VPを解説します。
VMDでもMDPでも、その構成要素・実践項目の中で、見た目上も運営上も特に大事だと思われているのがVPであろうと思います。2DISPLAY代表の経験では、VPをやることがVMDやMDPの全てだと思っている方が少なからずおられます。実際、それくらい重要なのは確かです。
VPは一言でいえば「売場の特徴特性やテーマをわかりやすく発信する場」です。
今その時期、いちばん打ち出したいテーマ・色・コーディネイト・品揃えの顔として。企業・店舗・売場のステートメントとして。このような役割を持つので重要なのです。あれば良いというものでは到底なく、その中身をいかに活きたもの、ワクワクするもの、目を引くもの、魅せられるもの、魅入られるものにできるかが重要です。
VPは、「顔」である以上「最も顔たる場所」に配置されるべきです。
顧客回遊上、ゾーンごとに最も当たりの強い場所、フロアやゾーンや売場にお客様が入ってこられたとき最初に目に留まる足が止まる場所に設置するのがセオリーであり、たとえそれが物販上の一等地であってもブランディング上は優先的に「召し上げる」べきものです。お客様が通る通路を劇場に例えれば、VPは上映されるストーリーであり俳優であり語り部であるからです。集客上重要なマグネットなのです。
ただ、売場のフロントラインになければならないとは限りません。売場の中に配して、売場内から売場全体に磁界を及ぼす「インナー型」のVPもあります。それがショップ全体の顔である場合は、メイン回遊導線またはショップの外から用意に目につく場所にあることが重要です。ショップの外から見えなければ存在する意味が半減してしまいます。要は「守備範囲の顔」たらせるということであり、VPという場にそういう役割を与えるということです。
売場のどこにするにせよ、その配置は全体での統一感をもって計画的に制御されるのが理想なので、取引形態はさておき店舗設計側で理想的配置を最初に決めるのが肝心です。その計画に取引先を従わせ、VPの形態すら交渉の中で制御することが望まれます。そのためには店舗の中でVPが負う役割とその表現内容を説き、そうすることがいかに重要で売れるポイントとなるかを示す必要があります。
ショップの特性に応じてVPの形態は様々あってよく、実際に売場型(IP型)のVPもありますが、それら様々な形態を意図をもって店舗で制御することも、ひとつのまとまった店舗テイスト・売場テイストを形成する上(ブランドコーナー編集など)では重要です。
VPで提案する商品は、顔として成立するもの・その時その売場で一番おすすめのコーディネイトを出すのが鉄則ですが、売場のVPではプライスは売場の平均価格以下でという教えがあります。実際にお客様が手に取りやすくこれなら買いたい!買える!と思っていただけることがその商品と売場の購入率向上につながるということですが、店舗・売場の顔であれば今最も表したいテーマを表せるコーディネイト!で推すべきでしょう。
2DISPLAY代表は、昔むかし店頭にほんの一瞬いたときの鮮烈な印象があります。
当時「VP担当」という役割の方がどの売場にも必ず任命されていて、VP担当がVPや後述するPPを替えると売れるのです。替わるとすぐに触られて売れていくのです。そしてまた新たなコーディネイトが形作られていきます。変えれば目立つ。目立たせればお客様の目を引く。目を引けば売れる。目を惹いているのです。
後から知ったのは、ただセンス良く替えているのではなく、売場にいらっしゃるお客様の好みに合うもの、品揃えの特徴に合うもの、新しいもの、そしてその時期の「テーマカラー」や「強調商品」を理解し尽くしたうえで替えていたのです。今では当たり前のことと捉えられるようになりましたが、とにかくスゴいと思ったものです。
自分たちのお客様が、ディスプレイの何にフックにかかるかを知り尽くしている。それをもとに「どう変えればよいか」を教えてくれる人たちでした。その通りやったら売れたのです。すると楽しくて、自分なりに試行錯誤するようになります。こういう人材育成を現場で行っているのは素晴らしいことです。
VP担当の先輩もスゴかったのですが、要はVPという場がスゴい!ということです。
VPにはいくつかのその"ビジュアルイメージ"を背負って立つレベル、ヒエラルキーが存在します。
■売場レベル
■フロアレベル
■館レベル
です。
1.売場レベル
その時期時期でファッションステートメントに載せるテーマ等に則り、売場の担当者が考えに考えてコーディネイトし「あ!ステキ!」と目に留めさせ、手に触れさせ、お買い上げいただく。単独のショップ単位のVPです。
2.フロアレベル
店舗が多層のフロアに渡る場合。
1.がそれぞれのフロアの中で(回遊する中で)順繰りに、全体の統一感をもって見えてくる。その点と点がつながって面になった状態に加え、フロアの代表としての「フロアVP」が存在するとアイテムや売場カテゴリを超えて「フロアとしてのステートメント」がより強調されます。
アイテムや属性の多様化によりフロアで一つの分類を持つのが難しくなった現代、ファッション衣料の比重が下がっている現代ではフロアVPをうまく機能させるのは難しくなっており、なくなる傾向にあります。一方で、VMDとして戦略的に捉えれば装飾ビジュアルの効いた「コア拠点」をフロア毎に持てるので理想的ではあります。
フロアVPに加え、顧客ターゲットとゾーニングがより細分化された現代では、フロア面積と単位の集積が大きな店舗では展開分類上フロア(大分類)の一つ下の階層である「中分類」単位のVPを持つことやフロアVPからより個性的な中分類レベルVPにシフトするのも一つの方向性です。
3.館レベル
館・建物全体の中でVMD拠点としての最大強調がされたVPであり、外装のショーウィンドウやグランドフロアに設置されます。「館としてのストーリーテリング」のために選りすぐりの代表商品でファッションステートメントを表現発信します。ディレクターが方向付けるべきもので、道行き通りかかるお客様に「企業や店舗のその時期の意図」がVPを通しキャラクターイメージとして伝わることが重要です。リアル店舗では、このキャラクターイメージやデザインテイストが企業イメージ・ブランディングそのものになっていきます。
1.は売場、ショップそれぞれで大方針のもと考え実行すること。2.はフロアのマネージャーや責任者が考え実行すること。3.は店舗のVMD責任者やディレクターが店舗の販売計画推進の中で全体指揮をとって実行することです。2.や3.を「メインVP」と捉え、館・建物の全体観の中で一連のストーリーテリングをもって意図的に確立していくことがプロフェッショナルのVMDレベルとしては求められます。
いずれのレベルも、この色・この柄キレイだな・・お客様にも見てもらいたいな・・これ売りたいな・・これとこれを組み合わせたらスッゴい売れそうだな・・売れたな!・・このコーディネイトにしたらセットで売れそうだな!!このショップらしいな! らしいテイスト出たな!!という流れを、業務として楽しく経験の積み重ねとして実践できることが重要です。これはファッションステートメントの原点であり、VP計画の原点です。
百貨店では特に顕著だと思いますが、旧来型でトラディショナルな場の役割の構築が「カッコ悪い」「古臭く時代遅れの象徴」とみなされ、敬遠されつつあります。残念ならがらショーウインドですらそんな機運を感じます。運用に人手とおカネもかかりますし・・・
しかし、正しく理解されるべきはその役割と効果であって、旧来型の設計や配置にするか否か等はデザイン上の「手法」の話です。形態や配置は空間デザインとのバランスの中で様々な選択肢があってよく、前述のようにショップフロントにあるのがVPの最大要件ではありません。ショップ内部または全体から発信誘引するパワー、分類の括り感を中心から醸し出すパワーと磁界を持ったVPがあってもよいのです。そのVPが「顔」として代表する「品揃えの括り」がお客様に判るか、特徴が伝わるかどうかが重要です。
とはいっても、VPはその形態・デザイン・視覚的表現と仕掛けに常に新規性と革新性を追求するのは絶対に必要なことです。発想と工夫とおカネと場のパワーが許す限り、とる手法としては五感に訴え掛ける大胆な表現をしたいものですね!
先にも触れましたが、売場型(IP型)のVPもあります。物販ですが「顔」としての役割も併せ持つもの。
これば売場前面の一等地や分類の括りの突端に形成されるもので、「売場の前面はお客様へ新しい提案をする場所」という使い方をすべきとのセオリーも含み、新商品の集積や、特定のテーマをもって周辺の元展開から商品が集められた集積になったりします。パワーラックと称してブランドの強みとなる人気商材をマグネット的に配する場合もありますが、その場合も顔としての視覚的演出とパワーアップをぬかりなく行いたいものです。
環境デザインのコンセプトや理想とする雰囲気を重要視するあまり、「VPはいらない」「VPにマネキンは使いたくない」などと主張するデザイナーは多いです。これは、旧来型でトラディショナルな手法はとりたくないという強い思いや、建築構造的考察がなされたうえでの納得性の高い意見であれば良いですが、安直に見てくれ上の好き嫌いから決める話では絶対にありません。先に述べた通り、空間デザインとのバランスの中で形態や配置を調整する必要はありますが、本来はその在り方、有無、形態、運用法といったwillを決めるのは企業サイド・店舗サイドなのです。
場の役割としての本質を捉えたうえで、なぜVPが必要か・・なぜマネキンでなければならないか(マネキンでなくてよいか)・・等を丁寧に議論する必要があります。「括りと配置」を考慮し、このような場の役割を館の中で階層的・分類表現的に配置していくことが重要であり、その場を効果的に運用できる組織作りと人材育成が重要なのです。
VPやPPには「切替」がつきものですが、時間外削減、労働効率改善の風潮の中でその運用は軽んじられたり優先順位が下がる傾向にあります。しかしVPの切替は「本来業としてなされるべきもの」であり、決して手抜かりされるものではありません。企業や店舗のイメージ、ブランディングに直結するからです。切替を閉店後や開店前にやらせるのではなく、パフォーマンスも含め営業中に本来業務として堂々と行うことが推奨されます。
VPでは企業・店舗イメージに直結されてしかるレベルのコーディネイトをすべての商品領域で考え抜いて行うことが望まれますので、その場その場で一番おススメのコーディネイトをただ作って提案すればよいものではありません。それは後述するPPがその役割を負えばよく、VPは特定のテーマやカラーを帯びてPPより強く打ち出されねばなりません。その場合、コーディネイトのさまはトータルバランス、複数の構成要素でのカラーバランスが重要になります。それを視覚的にバランスするテクニックが「クロスコーディネイト」であり「クロスマーチャンダイジング」です。これらはセールストークとして「着回し提案」「ライフスタイル提案」とよく言われます。その通りですが、括りと配置の理論の中ではVPとPPの役割を明確に別けて周到に配置計画するうえでの知っておくべきテクニックであると言えます。
いまは店頭で素敵!と共感していただいた場をSNSでシェアしていただくのが重要ですが、VPはとくにその機会が多くつくれるはずです。写真に撮ったとき、周りのノイズが写りこんでいたら残念ですよね・・・重点を入れるVPはできるだけ専用の区画を広めにとって、ノイズが写りこまない場づくりを行うと映え方がまったく違ってきますから留意したいものです。
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