最近、青山界隈によく出没しております。
もともとこの地の大学出身なのもあり、いつかはこの地で働いてみたい・・と夢を抱いておりましたが、この春から週1ですが通えることになりました。この地の専門学校で非常勤講師として勤めています。刺激的な街に刺激的な学生。サイコーです。今月から2年間VMD協会の理事をやりますが、毎月の理事会もこの地で開催されるようですので嬉しい限りです。
前職の同期入社の、現デザインオフィスnendo某氏がディレクション、前職で大変お世話になったデザイナー、佐藤寧子さんが率いる空間デザイン会社pranksさんがVMDデザインを行ったという、積水ハウスの「SUMUFUMU TERRACE 青山(スムフム テラス 青山)」がオープンしたとの情報をSNSで得たので、早速予約を入れて見てきました。
青山の学校で授業を終えてから、外苑前までちょっと歩いて。
ウェブサイトによれば、「住む人とつくり手がこれからの「住むコト」を一緒に考えていく場所」として作った施設。ここ青山店はオープンしたばかりで完全予約制でしたが、全部で5店舗あるそうです。
青山店をご案内くださったハウジングプランナーの片岡さんによると、他店舗(立川・池袋・錦糸町・新宿)はカフェのようなカジュアル感、ここ青山はアート軸のコミュニケーションラウンジとしての作りになっているそう。
一般的には、家を建てる際の拠り所はいわゆる住宅展示場…実際の家(とはいえ、展示場の家はかなりオーバースペックである場合が多いですね!)の見学がメインですが、ここはコミュニケーション価値を高める作りになっており、アートとマテリアルを接点に、自宅に対する思い、家族の雰囲気…理想の生き方… そういったことを、家の外観や間取りといったリアルな要素の前に考えてみることから始めよう・・という試みだそうです。
ここを出発点に、必要に応じて住宅展示場へのご案内を交えながら家創りを進めていくということでした。
「庭」と「可変性」の空間提案・・とウェブサイトには書いてありましたが、ここ青山店のデザインモチーフは「窓のサッシ」とのこと。
窓は外と中の間仕切り。外でもあり中でもある。実際、張り巡らされたサッシや外光と区別のつかない天井照明、トリッキーな庭(植栽)の配置などで外と中が曖昧に感じる作りになっています。サッシにはすべてガチャスリットがついていて、様々な機能の可変性が見込まれますし、サッシの組み変え自体も柔軟に行えるのでしょう。
間仕切りを渦のように構成し、渦にそってコミュニケーションを取りながら進んで行く過程でセキスイの魅力(という渦)に最後には巻き込まれる…仕組みだそう。
間取り、内装外装以外に「生活の提案」をしてるのが特記的で、アートなどの部分で提案の価値を上げていきたいと仰います。
導入部では「SEKISUI HOUSE meets ARTISTS」というアート展示を行っています。これは定期的に入れ替えていくそうですが、セキスイさんとしてもかなりチャレンジングな試みだそうです。
実際、取り入れたいアートに合わせて内装の色などを決める方もいるとのことでした。
ご案内頂くと、まず、そこのソファに座ってください…と。
低めのゆったりしたソファに座ると目の前には大きなアートが。
「アートの大きなフレームは疑似的な窓ですよね」。
大きな窓から見える非日常の風景。
アートが創る中と外。アートのための壁。アートに浸れる空間。
ああ・・これが自宅でできたなら。
… ここでふと思い出す。既視感がありました。
私の実家にはかつてこのような「絵の壁」がありました。
洋画家だった祖父から父が受け継いだ大きな絵のための壁が。建て替えた際には、リビングの眺めの先にその絵の壁がくるように設えていました。
「フィヨールドの船着場」というその油絵は実に大きく、切り立った巨崖と小さな港が対照的な大胆な構図と色使いで圧倒的に迫るものですが、子供にはよく理解できなかったんですよね。この絵の良さが解ったのは大人になって随分経ってからでした。
実家のこの絵も勿論アートには違いないですが、自分にとっては「祖父の描いた絵」、一家の大事なDNAで、家の中の空気のような一構成要素であり、アートという感覚で見たことは一度もなかった・・・
そんなことに突然気付かされました。
空気のような存在だったけど、たしかに家の中心を成していた。己とアートは自然の関係だったけど意識してなかっただけで確かな源泉だったかも。
そういう、生活と一体化した、人生をともに創る関係となりうるアートを、これから創る住まいとともに選ぶというのは確かに理想的なことかもしれない・・と思わずにはいられませんでした。
私の今の住まいには実家から祖父の絵を持ってきて飾っていますが、アートと言う感覚ではなく「DNAの結晶」「大事に受け継ぐもの」という感じなんです。受け継ぐというのも、家を成すアートの大事な要素かもしれませんね。
自分の理想のスタイルやテイストに合う、それを増幅してくれるアート。大きな「窓」となるものだけではなく、様々な作家の様々なアートが展示販売されています。学生作品や障がい者アートもある。住宅メーカーがそれらを紹介し提案してくれる時代になったんだ。
アートとその取り入れ方を介した談義を通し、知らず知らずに理想の空間とか暮らしの豊かさのようなことを話題にし、そんなのができたらいいですね…と考え始めている自分がいる。
すごく楽しいやりとり。
実際お家を創る際には、アーティストともやり取りをしながらオーダーメイドでアートを住まいと共に創っていくことを提案されています。
そして中央の「素材(マテリアル)ルーム」へ。
小さな正方形が同じ高さでたくさん並ぶ。
タイル、壁紙、生地、カーテンなど、様々な素材や建材がセキスイにより100種セレクトされ、20cm角で統一されて眼前に並んでいます。
直感的に目がいくものがある。
好きな色、質感。
好き嫌い問わず思わず目を惹かれるものもある。
これいいですね〜と声に出している。
いろいろ質問してしまう。
頂いたカタログには、展示されている素材が様々な切口で解説されていますが、ここでネタバレするのはやめておきます。
向こう側には設計ルームが見える。
この場所で理想のテクスチャーをあれこれ拾い、組み合わせながら設計の人と図面を見たり、他の素材帳と合わせて見てみたり… 楽しそうです。
素材ルームの陳列はpranksさんが相当拘って、削ぎ落とし練り上げたとのことで、一見の価値アリです。
ここが住まいの構想の出発点なのか。
完成見本としての家を見ることから出発するのではなく、この素材を活かすにはどんな家、空間、間取りがいいのか・・という順番。
家のカタチ…メーカーのシリーズや間取り、決まったユニットから入るのではなく、直感的なイメージから理想のスタイルを見つけていくこと。アートのように。
「機能的価値に加え、感性価値と社会的価値を加えているんです」と仰っていましたが、社会的価値とは、セキスイで家を建てることで社会貢献に参加できること・・だそうです。
産廃アート、障害者アートやそれをモチーフにしたクロス、海洋プラスチックゴミから作られたカーテン、産学連携。一個人がこういったもの・・建材やアートとして成立しているもの・・を発見してくるのは難しいですが、住宅メーカーが積極的にその間をつないでいけるというわけです。
こういったことを含め、「幸せの研究」をしようとしているそうです。
自分の理想の住まいを買うのは、人生のうちの最大の幸せの一つだから。老後まで背負うローンは現実ですが、その価値のある幸せを。住まいはライフスタイルデザインであるが、ライフデザインでもあるから。
ゆっくり話しながら回ってきましたが、最後には本当にそう思えている自分が。渦に巻き込まれたようです。
住宅展示場を散々まわって、そこから入って家を建てた自分ですが、理想の家…住まいとそのスタイルの見つけ方、見つけるためのアプローチとコミュニケーションが、展示場のそれとはかなり違うことはよく解りました。
わが家のアートを注文する・・とか、
セレクトされた素材が直感的にディスプレイされている・・とか。
こういうのは従来型の住宅展示場の建物内にはありません。
素材や建材、構造などの説明はたくさんあるけど、事務的な解説看板ですし。
展示場内で出来上がった家の見本を見てから中身と妥協点を決めるか。
理想のスタイルを描いてからそれにあう外見と中身、妥協点を決めるか。
結果的にはこのふたつにのアプローチは大きな差が生まれない場合も多かろうけど、そこに差を生むようにできるのは青山という立地の特性かもしれません。
最後に、ご案内頂いた片岡さんに「ここ青山店でいちばんお気に入りの眺めはどこですか?」と聞いてみたところ、出発点のソファーの場所に。
「ここですね。このお店、ご案内の出発地点ですし、アートから始まり、ここから素材ルームも設計ルームもすべてが一緒に見渡せるんですよ。」
アートとマテリアルが接点。
中も外も曖昧、捉え方は自由。家の設計の型にはめない。まず自分の理想のスタイルを見出すことから始めよう。確かにそうなっていました。
かつて住宅展示場で家を散々見てきた私ですが、こんな順序で本当に理想の家を創ってみたいものです。・・・今となってはもうムリだけど。
SUMUFUMU TERRACE 青山さん。見学させて頂きありがとうございました。