こんにちは。2DISPLAYの田辺です。
今回は上野の科博こと国立科学博物館の話題です。私にとっては幼少の頃からの聖地。え?博物館??VMDコンサルのブログなのにちっともVMDの話題が出ないじゃん。どうなってるのよ。いやいや、VMDの観点で観察すると博物館も面白いんですよ!今回は写真多めで。
9:00の開館と同時に館内に入って、まずは離れの地球館の恐竜フロアへ直行!!なぜって?人気のフロアで混むからです(笑)同じことを考えている恐竜好きがいない限り、9:15くらいまでは貸し切り状態で世界観に浸れます!
海外の博物館や美術館もそうですが、特に国立の規模の大きな博物館は、展示の分類に則したフロアごとのテーマの中での「統一感」がありますよね!それも圧倒的な。館の建築とも一体化していますから、実は一つの館として完全に統合されたテイストで内装、展示、表示類、演出が束ねられています。館が複数ある場合は館ごとにテイストがあったりしますが、概して各フロアやルームは全体統一の中での派生の空間デザインになっているはず。科博は実際、日本館(旧本館)と地球館(旧新館)でテイストが異なります。古い建物と新しい建物の作られ方の違いによりますね。当然建物構造や設備与件も異なるため、地球館の方が展示設計が柔軟に進化しています。
特に地球館は、フロアごとに圧倒的な「没入感」を我々に与えてくれます。高い天井の上から下まで使ったダイナミックな展示と演出。変幻自在の照明システム。連動した映像に音響。最新のデジタル技術も駆使し、「五感を全方位から刺激」してくれます。私がフロアを独り占めしたいのは、この没入感の中に浸りたいからです。
圧倒的な没入感だけではありません。展示の分類(カテゴリ)にそくしてroom to roomで絶妙な部屋割りと導線配置がされています。時には上に上がって見下ろしたり。同じフロア内で複数の展示(カテゴリ)の内容がごっちゃに感じないよう、しっかり「括りと配置」が計算されています。没入感と細部の整理整頓が両立されているからスゴイのです!
VMDの要諦と通じるところがありますよね。
では、VMD視点でもっと細かいところを観察してみましょう。
では、VMDにも通じる部分の深堀り観察をしていきましょう。
解りやすいのは、各展示室には必ず「コアとなる展示」が、展示室の入口や室内の中枢部に必ずあるということ。これはVMDでいえばVPに当たります。入口VPとしては、その展示室のテーマや特徴を見た瞬間に理解させて、うわー!面白そう!入ってみたい!とワクワクさせる役目です。日本館はこのパターン。中枢部にあるものは空間演出も含む包括的な世界観をコア展示全体で構築し、没入感の中で感じさせるものです。地球館、特にB1FやB2Fの古代生物フロアはまさにそれです。いずれも、各展示室の内容を象徴的に語り掛けるとともに、印象に残ったものを館として点と点をつないで思い出せば博物館全体の展示構成が振り返れます。こういう場では写真を撮りたくなりますよね!顔展示は大事です。
次に、VPとは対極に位置するIPに相当するもの。
それは言うまでもなく展示と陳列そのものです。博物館は、図書館と同様にクラシフィケーション(分類)が命。「展示分類の極致」が現れています。その博物館が得意とする分野、重要視する分野が分類上カテゴライズされて館や展示室の内容を構成していますから、科博は「日本」「地球」を館の分類の大元にしているのが独自性ということになります。
IPとしての各展示は、小売店舗でいえば「アイテム別分類・編集」です。アイテムカテゴリの括りの中を、精緻に分解し、括り、配置して見せてくれます。必ず陳列の序列が法則的に存在し、整理分類されています。
「日本」「地球」のようなカテゴライズはアイテム別分類ではなく、「テーマ別分類・独自編集」と捉えるべきです。科博のメンバーが独自に設定したテーマ構成による編集展示です。展示室内も、徹底的圧倒的に幅と奥の深いアイテム別IP陳列と、唸らせられる切り口のテーマ別編集IP陳列が巧みに組み合わされて科博のオリジナリティを創り出しています。この考え方は、小売店舗の「商品分類」「展開分類」と同じです。店舗のようにブランド・テイスト・マインドといった分類軸はありませんが(笑)
IPの流れでいえば、上記のとおり個々の配置構成、 整理分類が徹底されていますが、分類の括りを明確に視認理解させるために「ネガティブスペース」(何も置かない空間)がこれでもかと使われています。
博物館の展示陳列を見れば、ネガティブスペースがいかに重要かがわかります。
考え尽くされたIPの「展示展開機能設計」も特筆すべき点です。個々の標本や陳列板を設置するための機能設計。展示とともにぜひ観察してみてください。VMDのアイデアが広がりますよ。壁面設計、覗きのガラスケースの設計、什器内照明の設計、配線隠し・・気になりだすときりがありません。
「細部に魂が宿る」。
よーく見ると、妥協なく細かくデザインされ作り込まれた演出物に出会うことが出来ます。
展示室という空間のなかでの「展示の眺めと高さ」。
実際にじっくりと見てもらう展示は、目の届く高さが意識されています。VMDでいう「ゴールデンゾーン」です。スケール感で圧倒的に訴えかける展示はその限りではありませんが、凡そ見やすい高さに見やすいIP陳列。演出要素の展示は、高い天井にも、床下にも、いたるところにシカケとしてダイナミックかつ構築的に用いられています。ダイナミックな演出展示は、展示室内の設計段階から周到に計画されたものです。
顔展示は遠くからでも明瞭に目に留まる一方で、room to roomの導入により壁で見通しを遮り先の期待感をたかめる眺めの作り方、手前から奥まで全てがきちんと見える、高さを意識した置きの陳列構成、天井までの高さの活用が本当に上手いと思います。
館内、展示室内だけではありませんね。B1F出口から屋外に出たときに見えてくるシロナガスクジラ。これも展示の眺めの最たるものです。
「展示陳列の構成」・・内容の話ではなく並べ方の話ですが、言うまでもなく一流です。誰がどこかどう展示を見るか・・・が計算しつくされて展示品が並べられています。
「表示類の制御」が徹底されています。
博物館、美術館は顕著ですが、とにかく必要なカテゴリーサインと説明POPは徹底的に計算のうえ配置されています。後付けの適当POPは一切ありません。すべてが規則性のもとで管理されています。表示は情報源として冷静に制御。展示は時にダイナミックに演出構成。役割を明確に別けています。館としてのサインの大方針があるのだと思います。
展示の凄さだけではありません!
この博物館は、全体を通して一気通貫で徹底されていることが他にもあります。「パブリックスペースの制御」です。
公共の通路、エスカレータ周り、階段周り・・建物内外問わず、場所を問わず清掃が行き届き、無駄なモノ余計なモノが一切置かれておらず、ネガティブスペースが徹底してとられています。これが、各々に濃い空間である展示室を行きかう上での気分のリセットを促し、無駄な情報から隔離してくれ、展示の濃さを十二分に感じさせてくれる大きな要因です。館全体でパブリックスペースの「ノイズカット」が徹底されているので、館全体の統一感と展示室での没入感が高いのです。
これはレストランも含め全館で徹底されていることです。素晴らしい博物館や美術館は概してこの点が共通しています。素晴らしい店舗も同様ですね。
地球館1Fのミュージアムショップとラウンジだけは例外で、運営・役割上仕方ないですが・・・残念!
対比のために昔と現在の違いを写真も用いて比較してきました。
良くなったところ。展示のすべて。
悪くなったところ。玄関ホールと日本館の佇まい。
科学博物館は、明らかに地球館の1Fが正面玄関です。高い吹き抜けのある、建築上も象徴的な玄関ホールから入場し、その空間から始まるべきです。かつて、玄関ホールには巨大なタルボサウルスの骨格が堂々と聳えていました。ここで博物館の全てが一瞥して理解できるのです。全館の象徴たる顔が玄関に堂々と構える。そこから博物館の世界観を感じて入り、見終えたらそこから出る。これがシンプルにあるべき姿でしょう。
現在は、動員が増えたからでしょうが、1F正面玄関は封鎖され、地球館B1Fに降りてそこから入館するようになっています。B1Fに入るとどこにでもありそうな風情のショップとラウンジ・・・1Fに上がると、無様に封鎖された吹き抜けの中央ホールが・・・国指定重要文化財であるネオルネサンス様式の建築が泣いています。こんな変な使い方をすべきではありません。魂は細部にはここでもかと込められていますが、最も重要大事な館の魂が抜けていますよ。科博本館(日本館)のパブリックスペースはなおざりにされすぎました。館の象徴としての地球館1F玄関ホールの本来の姿を、科博が取り戻す日が来るのを切に願います。
長々と失礼いたしました!
★企画展のご紹介です。
11/25まで、地球館1Fで「標本づくりの技」展を開催中。黒いフレキマネキンの使い方、スチールラックの前面にアクリルを貼り展示ケースに仕立てた展示形態、段ボールによる演出などなど、楽しい工夫の宝庫です。VMDの引き出しが広がりますよ!